医師の海外留学について綴っている記事は複数見かけるけれど、医師の国内留学についての情報はあまり見かけません。
私が医師として国内(研究)留学をした一経験を元に、留学までの流れをお伝えするとともに、メリット、デメリットについても考えてみたいと思います。
国内留学の体験談
まずは私自身の経験談についてお話したいと思います。
私は所属大学・勤務地の異なる夫との結婚を機に医局を移ることを検討していました。
夫の所属する大学へ医局を移ることを念頭においていましたが、私の所属していた医局からは「今の大学の大学院へ進学し、夫の勤務地のある大学へ国内留学をしてみないか。」というものでした。もともと臨床のできる医師として働きたかった当時の私は迷いましたが、その提案を受け入れて、大学院へ進学・国内留学することとなりました。
国内留学中は苦労することもありましたが(後述)、無事に4年間で学位を取得することができ、有意義な経験だったと思っています。
国内留学の手続き
特別な手続きがあるわけではありません。
まずは医局の教授同士でやりとりをしてくださり、その後、一度上司と共に現地へご挨拶に伺いました。
以降は秘書の方などとメールで必要な書類のやり取りをしました。
国内留学のメリット
1. 医局を移る必要がない
医局への所属というのは口約束みたいなものですが、それでも一度入ると切っても切れない関係になります。医局を移る際には一定のストレスがかかる可能性が高く、医局をそのままにして居住地を移ることができる、自分の興味のあることを学べる、というのは大きなメリットだと思います。
オマケとして、医局に所属していると付随してくることの多い医局費や同門会費ですが、医局を移ると同門会費などは両方に支払わないといけなくなる場合が多いのではないでしょうか。それが生じないのもちょっとしたメリットかもしれません。
2.医局を移ることを考えている場合にも、現地で雰囲気を知ることができる
個々の医局には、それぞれ独自に大切にしていることや、独特の雰囲気が存在します。例えば、臨床と研究それぞれにどの程度重きを置いているか違ったりします。それが、教授が変わるとまたコロっと変わったりもします。
それは見学する立場で行くと、良い面しか見えなかったり、良い面しか話してもらえなかったりもするので、現地でその大学内に所属することで、考えている医局の周りからの評判や雰囲気を察知することができます。
3. 視野が広がる
臨床でも研究でも、いつの間にかその医局内で当たり前になっていることがあると思います。
それは、その場所に所属している間は気がつくことができないのですが、その場所を離れてみて初めて気がつくことができたりするものです。
新しい環境で新しい考え方に触れることで、これまで培ってきた技術や知識の汎用性を客観的にみることができるようになりました。
4. 人脈が広がる
どのような業界でも、人脈はとても大事ですよね。
研究会や学会で積極的に交流をして人脈を広げることはもちろんできますが、「一緒に働いたことがある」というつながりにまさるものはなかなか無いのではないでしょうか。
将来的には元の場所に戻るにしても、その後の施設を超えた共同研究につながったり、自身の後輩を紹介して育ててもらったりといったことにもつながります。
5. 海外留学と比べると相対的に負担が少ない
海外留学と比べると経済的負担が少ないと考えられます。言語の壁もないので、精神的負担は海外と比べると少ないのではないでしょうか。
国内留学のデメリット
1. 役職への影響が気になる
医局に所属していると、年数が進むにつれて、たとえば研修医→専攻医→医員→助教→講師→准教授→教授といったように役職が上がっていきます。
医員くらいまでは年数が進むと自動的に上がっていく場合が多いですが、大学病院の場合は非常勤扱いとなることが多いようです。
助教からは常勤扱いで福利厚生も変わってきますが、たとえば学位をとっていないといけないなど、大きめの医局では一定のハードルを設けている場合が多いです。
講師はさらに人数も限られてくるので、ある程度医局に貢献していることが求められると思います。
医局に貢献というのは、たとえば研究費の獲得、学生への講義、後輩の指導、病棟医長や外来医長などの事務的な仕事が付随してくる仕事を担当したりといったことになります。
留学中は物理的に医局との距離があるため、こういった医局への貢献の機会がどうしても少なくなると思います。
所属医局で役職に就くことを念頭においている場合、国内留学の期間については医局とよくコミュニケーションをとりながら決めていくことが大切だと思います。
2. 収入に対する懸念
病院を移ることになるので、元々の施設からは給与は支払われない場合が多いと思います。
臨床留学であれば、移り先の病院から給与が出ることになる場合が多いと思いますが、念のため確認しましょう。
私のように大学院生期間の留学の場合、収入をアルバイトに頼らざるを得ませんが、知らない土地で探すのは少々ストレスがあるかと思います。
私は幸い移り先の研究室が紹介してくれたバイト先と、自身で登録した医師の求人サイトから非常勤のアルバイトを見つけて働くことができました。
しかしながら、自分の臨床での専門性を生かした仕事は現地ではなかなか見つけられませんでした。
専門性を活かせる仕事は現地の医局が派遣している場合が多いです。
3. 環境の変化は限定的
海外留学と比べると環境の変化は限定的であるため、研究の規模や人脈の拡大の面で得られるものは少し限られる場合があるかもしれません。
4. 医局とのこまめな連絡が取りにくい
研究留学の場合、所属している医局と留学先とで研究テーマを決めていく場合があると思います。
私の場合、あるテーマを考えて留学しましたが、論文に書けるような結果が得られず、別のテーマへの方向転換を余儀なくされました。
医局の上司にはメールで報告していましたが、次にうまくいったテーマでいざ論文を書こうという段階で「どうしても前のテーマで」と言われてしまい困惑したのを覚えています。
今の時代はZoomやTeamsも普及していますので、大事な話の場合はなるべく顔を合わせる機会を作って、きちんと方向性を話し合っておいた方が良かったと自身を省みました。
まとめ
以上が私の国内留学の経験から感じたことになります。
働く期間というのは案外長いものです。
チャンスがあるなら、変化におそれず新しい場所で新しいことを学ぶのも良い選択肢のひとつかもしれません。
これから留学を考える方の参考になれば幸いです。
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